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津地方裁判所 昭和54年(ワ)138号 判決

原告

久保治

久保信枝

右両名訴訟代理人

石坂俊雄

中村亀雄

村田正人

被告

三重県

右代表者知事

田川亮三

右訴訟代理人

俵正市

重宗次郎

被告

津市

右代表者市長

岡村初博

右訴訟代理人

樋上陽

樋上益良

被告

田村マキ子外一〇名

右被告一一名訴訟代理人

浜口雄

主文

一  被告田村マキ子、同上田昇及び同薦田鍈代は、各自原告久保治に対し、金二六六万三六八六円及び内金二三六万三六八六円に対する昭和五一年八月一日から、内金三〇万円に対する本判決確定の日の翌日からそれぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告田村マキ子、同上田昇及び同薦田鍈代は、各自原告久保信枝に対し、金二六〇万三六八六円及び内金二三〇万三六八六円に対する昭和五一年八月一日から、内金三〇万円に対する本判決確定の日の翌日からそれぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らの被告田村マキ子、同上田昇及び同薦田鍈代に対するその余の請求並びにその余の被告らに対する各請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告らに生じた費用の五分の一と被告田村マキ子、同上田昇及び同薦田鍈代に生じた費用の五分の一を同被告らの負担とし、原告ら及び右被告らに生じたその余の費用並びにその余の被告らに生じた費用を原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1被告らは、各自原告久保治に対し、金二五一六万一三六〇円及び内金二三六六万一三六〇円に対する昭和五一年八月一日から、内金一五〇万円に対する本判決確定の日の翌日からそれぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2被告らは、各自原告久保信枝に対し、金二四八六万一三六〇円及び内金二三三六万一三六〇円に対する昭和五一年八月一日から、内金一五〇万円に対する本判決確定の日の翌日からそれぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3訴訟費用は被告らの負担とする。

4仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1原告らの請求を棄却する。

2訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

原告らは亡久保友行の両親であり、被告三重県、同津市以外の被告らは四ツ葉子ども会育成会会員であり、右子ども会が計画・実施したハイキングにおける引率者らである。

2  本件事故の発生

久保友行(昭和四二年五月一〇日生。以下、友行という。)は、昭和五一年八月一日、三重県安芸郡芸濃町雲林院市場字玉ケ平地内の安濃川勢野橋上流約三〇〇メートル付近で実施された四ツ葉子ども会のハイキング(以下、本件ハイキングという。)に参加した(参加者は、児童三〇名、子ども会OB中学生六名及び引率者たる被告ら育成会員一一名であつた。)。

右ハイキングは、右川原において、飯盒炊飯及び川遊びを計画しており、飯盒炊飯は当初の計画どおりに右川原において実施されたが、同所は炎天下の酷暑状態にあつたため、同所から約五〇メートル下流の木蔭のある川原に参加者全員が移動して昼食をとり、食器洗いがほぼ終了した同日午後一時ころ、被告田村マキ子の指示でそのまま同所において川遊びが開始され、友行は、他の児童とともに川遊びをしていたところ、川遊びの範囲として指示された水域の下流約一五メートル付近の深みにおいて岩から水中に滑り落ち、同日午後一時三〇分ころ溺死した。

3  責任

(一) 被告三重県及び同津市の責任

(1) 被告三重県及び同津市は、社会教育の奨励に必要な施設の設置及び運営、集会の開催資料の作成、頒布その他の方法により、すべての国民があらゆる機会、あらゆる場所を利用して、自らの実際生活に即する文化的教養を高めるような環境を醸成する義務がある(社会教育法三条)。

(2) 子ども会活動も、学校教育の課程として行われる教育活動以外の体育及びレクリエーション活動であるから社会教育活動の一つである(社会教育法二条)。

(3) 被告三重県及び同津市は体育及びレクリエーションに必要な設備、器材及び資料の提供・配布義務・情報の交換、調査研究の義務がある(社会教育法五条・六条)のであるから児童・生徒が容易に近よれる河川等の危険場所・区域においては、そのような場所等を危険区域に指定し、右区域等におけるレクリエーション等は計画・実行しないようにその旨の資料を作成したうえ配布するなどして各単位子ども会に周知徹底させ指導すべきであつた。

(4) 被告三重県及び同津市の社会教育の奨励・環境醸成の義務の中には社会教育職員による専門的指導や活動組織化の援助なども含まれている。

したがつて、被告三重県及び同津市としては、子ども会活動についてその指導者の育成及びレクリエーションなどの計画・実施、引率する際の各注意事項について詳しく専門的指導を子ども会育成者になすべきであつた。

ところが、被告三重県及び同津市は右二つの義務をいずれも尽くしておらない過失がある。

(5) 被告三重県及び同津市が右義務を誠実に履行しておれば、本件事故が発生した場所は児童・生徒が川遊びを好んでする場所でありかつ危険区域であることは容易にわかつたはずであるから右場所を危険区域に指定することは容易にできたはずである。被告三重県及び同津市が右指定をなし、レクリエーション等を禁止しその旨各単位子ども会に資料を作成・配布し周知徹底し、かつ、ハイキングにおける計画及び実施方法に関して注意すべきことを指導しておれば少なくとも四ツ葉子ども会は本件事故現場におけるハイキングは行わなかつたと考えられるし、仮に実施したとしても十分な事前調査・監視体制がとられることになるので本件事故の発生は未然に防止しえたはずである。

(6) 以上の各事務を担当する職員は、県・市各教育委員会社会教育課の職員であり、被告らには、いずれも国家賠償法一条に基づく損害賠償責任がある。

(二) 被告田村マキ子ほか一〇名の引率者らの責任

(1) 計画段階における過失

当時の四ツ葉子ども会育成会の役員は、会長上田昇、書記薦田鍈代、会計立松美代子、第一班班長木平茂子、第二班班長田村トモ子、第三班班長川邊幹郎、第四班班長川邊冨貴子、指導者田村マキ子であつた。

本件ハイキングは、昭和五一年四月一一日四ツ葉子ども会における総会で計画立案されたものを受けて同月一七日四ツ葉子ども会の育成会役員と子ども会の役員が合同で検討した上で年間行事として計画立案され、同月二四日の育成会の総会で承認を受け、場所の選定を被告田村マキ子と役員三役に一任されたので、六月七日、被告田村マキ子、同薦田鍈代、同上田昇が本件現場の選定及び下見に行き、同年六月一一日にその報告を育成会の役員会においてなし具体的に本件ハイキング場所が決定したものである。

被告田村マキ子ほか一〇名の引率者らは(以下、被告引率者らという。)、本件ハイキングには川遊びも計画されていたのであるから、その計画の段階において、川遊びの方法、監視の仕方等について役割分担を決め安全対策について十分に検討すべきであつたのにもかかわらず、事前になんらそのような検討をなしていない。被告引率者らが事前に右のような安全対策を講じておれば、本件現場において十分な監視・監督体制がとれ、本件事故は発生しなかつた蓋然性が強く、計画段階における準備不足の過失がある。

(2) 水遊び場所選定の過失

本件ハイキングが実施された場所は安芸郡芸濃町雲林院市場字玉ケ平地内の安濃川勢野橋上流約三〇〇メートル付近であるが前記の経緯で、川遊びは当初の計画場所である右川原より下流約五〇メートルの地点に移動して実施された。

本件川遊びをした川原の状況は、水流も速く、川底は滑りやすく、直下流には1.5ないし二メートルの深みがあり、児童・生徒が川遊びをする場所としては危険な所であつた。

ところで、被告引率者らは、川遊び場所を選定するに際しては、事前にその河床の状況や上・下流の状況を水流・水深も含めて調査をし、その上で協議をして児童・生徒に危険でない場所を選定・変更すべき注意義務があるのにもかかわらず、その点の調査を怠り、本件のような危険な川原を川遊びの場所として選定・変更したために本件事故が発生したものであるから、場所の選定・変更の過失がある。

(3) 監視体制不備による過失

被告引率者らは、右のような危険区域を川遊びの場所として選定したのであるから、児童・生徒らに危険な場所を周知徹底させ、許可区域には旗・ロープ等を使用してその範囲を明確にし、許可区域の上・下流には監視員をおき、その他分担を決め、子供たちの動静を監視し、川遊びの安全対策に万全を尽くすべきであつたにもかかわらず、監視体制について十分事前に検討することなく許可区域の明示も不十分なまま、上・下流の監視員も置かず、互いに誰かが見てくれるであろうという無責任な状態のままで川遊びをさせた被告引率者らの過失は極めて重大である。

本件事故は、上・下流に監視員を各一人ずつ配置するだけの注意義務を尽くしてさえいれば他に過失があつたとしても防ぐことができたことは明白であり、決して被告引率者らに酷な責任を追及するものではない。

本件ハイキングは育成会の役員会において立案計画され、その総会において実行されたものであり、その育成会役員はすべて本件ハイキングには引率者として同行しており、役員でない引率者も本件ハイキングの内容を事前に知り、その計画について特別異議も止めず、現場における役員の行動についても同様異議を止めなかつたものであるから、被告引率者らは民法七〇九条、七一九条に基づき連帯して本件事故の責任を負う義務がある。

4  損害

(一) 友行の損害

(1) 逸失利益 金二〇七一万五八一六円

友行は死亡時、九歳の男子であり、その就労可能年数は四九年間であるから一八歳の時から就労するとすると、少なくとも六七歳まで何らかの職業について、収入をあげえたものである。

逸失利益の算定については、口頭弁論終結時における最新の資料を用いるべきであるから、最新の昭和五六年度賃金センサス第一巻第一表男子労働者学歴計によつて友行の逸失利益を算定すると次のとおりとなる。

ア 年間収入 一五八万七五〇〇円

122,600円×12+116,300円

=1,587,500円

イ ホフマン係数 19.574

ウ 生活費控除 三分の一

友行が長男であつて将来一家の中心存在となることが予測されているから三分の一としてする。

計算

=20,715,816円

(2) 慰謝料 金一〇〇〇万円

健康で優秀な友行が溺死により九歳で他界しなければならなかつた精神的苦痛は甚大であり、右苦痛に対する慰謝料として金一〇〇〇万円を下らない。

(3) 原告らは友行の父母としてそれぞれ友行の権利を二分の一づつ相続したものであるから、その金額は右合計金額の二分の一である金一五三五万七九〇八円である。

(二) 原告らの損害

(1) 慰謝料 金二〇〇〇万円

友行の成績はクラスで五番目ぐらいの上位に入つており、妹や弟のめんどう見もよく、将来は大学まで卒業させてとの両親の期待を一身にになつていたものであり、その子供を失つた両親の苦痛は想像を絶するものがある。

原告らの蒙つた精神的苦痛に対する慰謝料としては各自金一〇〇〇万円は下らない。

(2) 葬儀費用 金三〇万円

原告久保治は、友行の葬儀費用として少なくとも三〇万円の出費を余儀なくされた。

(3) 弁護士費用 金三〇〇万円

原告らは、被告らが前記各損害の支払いをしないためにやむなく本訴の提起を余儀なくされ、代理人らとの間に訴訟委任契約をなしたものであるが、そのうち少なくとも金三〇〇万円は本件事故と相当因果関係のある損害であるから原告らは各自金一五〇万円ずつの損害を被つた。

5  結論

よつて、原告久保治は、被告らに対し、前記各損害賠償金の合計二七一五万七九〇八円の一部請求として金二五一六万一三六〇円、原告久保信枝は、被告らに対し、前記各損害賠償金の合計二六八五万七九〇八円の一部請求として金二四八六万一三六〇円並びに原告久保治の内金二三六六万一三六〇円、原告久保信枝の内金二四八六万一三六〇円に対する不法行為の日である昭和五一年八月一日から及び内金各一五〇万円に対する本判決確定の日の翌日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

1  (被告三重県)

(一) 請求原因1の事実は知らない。

(二) 同2のうち、友行が死亡したことを認め、その余の事実は知らない。

(三) 同3・(一)のうち、(2)は認め、(6)のうち、国家賠償法に基づく損害賠償責任のあることは否認し、その余は争う。

(四) 同4の事実は知らない。

2  (被告津市)

(一) 請求原因1の事実は認める。

(二) 同2のうち、友行の死因が溺死であるとの点は知らない。

その余の事実は認める。

(三) 同3・(一)・(1)ないし(3)のうち、社会教育法に原告の主張する各法案が存在することを認め、(6)のうち国家賠償法一条に基づく損害賠償責任のあることは否認し、その余は争う。なお、3・(二)・(1)のうち、本件ハイキングの計画立案、場所決定までの経緯については認める。

(四) 同4は知らない。

3  (被告三重県、同津市以外の被告ら)

(一) 請求原因1の事実は認める。

(二) 同2のうち、友行の死因が溺死であることを否認し、その余の事実は認める。

(三) 同3・(二)の(1)のうち、本件ハイキングの計画立案、場所決定までの経緯については認めるが過失ありとする点は全て争う。

(四) 同4の事実は知らない。

三  被告三重県の主張

1原告らは、被告三重県の責任の法的根拠として、同被告に社会教育法三条、五条、六条に基づく各作為義務があるにもかかわらず、これを懈怠したが故に国家賠償法一条に該当すると主張している。

2しかし、社会教育法三条の規定は、所謂倫理的責務を課したもので具体的な法的義務をまで意味しているものではなく、また、同法五条、六条の各規定もその規定文言から明らかなように「当該地方の必要に応じ、予算の範囲内において」なせば足りるものであり、その具体的措置(事務)の程度・内容については地方公共団体の裁量に委ねる趣旨のものであるから、これらの各規定を根拠とする主張はそれ自体失当と評さなければならない。

3また原告らが被告三重県の作為義務の法的根拠として主張する法条規定の社会教育法は、同法一条の規定文言から明らかなごとく教育基本法の基本的精神とのかかわりを重要視しているのであるから、同教育法の解釈に当つても、同法が国民の教育の自由を社会教育団体の自主性という形で保障するとともに、社会教育行政の限界を厳しく規制していることに十分留意する必要があるものといわなければならない(社会教育法一一条、一二条参照)。

すなわち、右教育法は、所謂「指導助言行政」の内部制約性を端的に明確にしているのであり、換言すれば「指導助言行政」は、法的拘束力をもたず、対等な関係において内容の優秀性によつてのみ実効をあげうる非権力的行政行為である。所謂「指揮監督権」のごとき法的拘束力をもつた性質のものではない。このことは、右教育法九条の三第一項が更に具体的に規定しているところである。

以上の観点より明白なごとく、右教育法では、行政主体が具体的法的拘束力をもつ権限(義務)を有することには消極的な態度をとつているのであるから、前述の原告ら主張の各法条の規定も、この意味においてのみ理解されなければならず、同各規定を個々具体的な法的義務を課しているものと解することは、かえつて、右教育法の趣旨に違背するものといわなければならないのである。

そして、これを本件についてみると、被告三重県においては、昭和五一年当時、三重県子ども会育成者連絡協議会に対し、その申請に基づき、補助金として金二三万円を支出しているのみで他に同会等との間に具体的な指揮監督関係もなく、正に、右教育法にいうところの「指導及び助言」の域を超えない範囲での行政をなしているのが実情であることに鑑みれば、同被告が、原告ら主張のごとき各注意義務を負担しているものと評することは到底許されないものといわなければならない。

四  被告津市の主張

原告らの主張は、「被告津市には社会教育法に規定する諸事項を履行すべき作為義務があり、本件ではかかる義務を尽くさなかつた点に過失が存し、この義務主体は津市教育委員会社会教育課の職員であるから、国家賠償法一条により損害賠償の請求を為す」というものであると推論される。

確かに地方公共団体は、現行教育制度の社会教育観的見地から、社会教育の振興を図るべきであるという一般的・抽象的義務のあることは社会教育法三条から窺えるところである。しかし、同法五条、六条に規定するところのものは、単に公共団体が行う行政の範囲を具体的に明示したに過ぎず、法的義務を規定したものではない。

仮に原告ら主張の義務が存在したとしても、原告が主張するが如き内容の義務を尽くすことは事実上不可能であると共に、その義務の履行・不履行と結果発生との間に因果関係はない。

また、右法条に則り、職務執行にあたる前記職員の行為はいわゆる非権力作用に属するものであり「公権力の行使」に該当しない。

五  被告三重県、同津市以外の被告らの主張

1過失責任の存否について

(一) 本件において被告らは、無償の社会奉仕をしたものであつて、これに対して過失責任を問う社会的基盤は存在しない。

(二) また、被告らは労務の無償給付を行つたものであるから贈与若しくはこれに準じた無名契約とみて、民法五五一条により何らの担保責任を負わないものであり、しからずとしても本件のごとき場合には、責任を問わないとする慣習が存在する。

(三) 本件のようなハイキングは日常的なことがらであり、また、必要かつ有益なものであるからこれに対して過失責任を問うのは相当でない。

2本件の川遊びにおいては、同所への入口には事故当時「芸濃中学水泳場」の標示があり、学校教育者からも安全と考えられていた場所であり、川遊びを許可したのは水深が二〇センチメートル位までの所であるから引率者らにとつて危険があることを予想することは困難であつた。

3久保友行は被告田村マキ子の川遊び範囲の指示範囲を越えて遊びに行き水死したものであつて、友行は午前中にも行事の範囲を越えて山林でカブト虫取りをするなどの傾向があり、みずから規律に反して本件事故となつたもので自己過失に基づく事故である。

4過失相殺

右3から明らかなように、友行は、相応の判断力があるにもかかわらず、危険の中に立入つたものであるから、その過失は重大であり、過失相殺がなされるべきである。

六  被告らの主張に対する原告らの反論

被告らの主張はいずれも争う。

なお、本件事故においては、被告引率者らの過失が重大であるのに対して、友行は引率者らの不十分な許可範囲の指示のため許可範囲を超えているとの認識もなく、他の小学校四年生以下の児童と連れだつて川下に向つていき本件事故にあつたのであるから、友行の行動に批判の余地はなく、過失相殺の余地がない。

第三  証拠《省略》

理由

一請求原因1の事実は各当事者間に争いがない。

二1同2の事実は、友行が溺死したとの点を除いて、また、同3・(二)・(1)の事実のうち、本件ハイキングの計画立案、場所決定までの経緯については、原告と被告三重県を除いた被告らとの間で争いがなく、友行の死亡の点は被告三重県もこれを認めるところである。

2〈証拠〉を総合すれば、次の事実が認められ、これを左右するに足りる証拠はない(前記各証拠中後記認定に反する部分はいずれも採用しない。)。

(一)  ハイキングの実施

本件ハイキングは、昭和五一年八月一日、三重県安芸郡芸濃町雲林院市場字玉ケ平地内の安濃川勢野橋上流約三〇〇メートル付近川原で実施され、小学生一年生から六年生までの四ツ葉子ども会児童三〇名、子ども会OB中学生六名及び引率者たる被告ら育成会会員一一名が参加した。

ところで、本件ハイキングは、四ツ葉子ども会の昭和五一年度年間行事の一つとして計画されたもので、昭和五一年四月二四日の育成会総会において右計画が承認され、行先の選定は役員会に一任された。これに基づいて役員会が開かれ、行先は安濃川に決定され、同年六月七日、被告上田昇(昭和五一年度四ツ葉子ども会育成会会長)、同薦田鍈代(同会書記)が役員であるところから子ども会運営についての責任者として、かねて子ども会活動指導の中心となつていた被告田村マキ子と共にハイキング先の場所の選定に出かけ、本件ハイキングの実施場所である川原に赴いた。同所は、長さ約二七ないし三〇メートル、幅約二〇ないし二二メートルの石と砂でできた平坦な広場になつており、その前面の川幅は約五ないし六メートルで上流には深さ二メートル以上の深みがあるが、川原の前面は大人の膝ぐらいまでの水深で流れも緩やかであつたことから、右被告らは、同所が安全かつ適当な場所であると判断して、同所において飯盒炊飯を中心行事とし、三〇分程度の川遊びを行うことに意見の一致を見、同月一一日の役員会において、同所を行先とすることを正式に決定した。

なお、右下見の際、右被告らは、右川原の約五〇メートル下流の川原の状況も見た結果、同所に木蔭があつたので、暑いときには同所に移動すればよいと話し合つたが、同所の前面の河川で川遊びをさせることまでは考えていなかつたので、河川自体の調査はしなかつたが、被告田村マキ子はその上流と下流にそれぞれ1.5メートルないし二メートルの深みがあることに気付いていた。

前記六月一一日の役員会では、ハイキングに保護者も同行すべきか否かについて議論がかわされたが、子供達の自主性を尊重するため育成会の役員らだけで児童を引率していくことに決定された。

(二)  川遊び前の状況

本件ハイキングに参加した子ども会児童らは午前八時三〇分ころ、ハイキングの目的地としていた前記川原に到着した。被告田村マキ子は同所において児童らを班別(本件ハイキングは四班に編成され、死亡した友行は二班に属していた。)に整列させたうえ、人員調べを終えたあと子ども会会長立松久典に行事予定表を読みあげさせ、またみずから当日の行動等について一般的な注意を与え、その際「川は危いので特に気をつけるように」と注意した。その後同所で各班ごとに飯盒炊飯にとりかかり、午前一一時ころ食事の準備が完了した。しかし同所は炎天下で酷暑状態にあつたため、誰言うとなく被告田村マキ子らが昭和五一年六月七日に下見をした際、暑いときの退避場所にすればよいと考えていた約五〇メートル下流の木蔭のある川原へ全員が移動したうえ、同所で班別に食事をとり午後零時三〇分ころ、食事を終えた。そして昼食後木蔭の前の川で班別に上級生が中心となつて食器洗いが行われたが、その間他の児童は川原に散らばり走り回つて遊んでいた。

(三)  川遊び現場の状況

本件川遊び現場付近一帯はいわゆる溪谷であつて、巨岩が点在するとともに大小様々の岩が各所に散在し、流れには浅瀬の個所と深みの部分があつて一部で流れが速く、川底の状況も一定していない。本件川遊びをした川原(当日班別に昼食をとつた木蔭での川原)は広さ約三〇〇平方メートルで、その前面の川は川幅約三ないし四メートル、水深二〇ないし三〇センチメートルで流れがあり、川底はこけ等がはえており滑りやすい状態であつた。そして右川原の尽きた付近より東方の下流域は川幅が一〇メートルぐらいとなり、その南岸から北岸に向け三ないし四メートルぐらいの間は水深三〇ないし五〇センチメートルぐらいであるがそれより北岸に至る間は水深約1.5ないし二メートルの水が淀んだいわゆる淵と呼ばれる深みとなり、それが下流方向へ約一〇メートルほど続いていた。

(四)  川遊びの状況

(1) 昼食後の食器洗いがほぼ終了した午後一時ころ、被告田村マキ子は「もういいわね」と近くにいた被告上田、同薦田に声をかけ(計画表では川遊びは一時半の予定であつた。)本件川原の水際近くに立ち、班編成が自然に解け川原に散らばつて自由に遊んでいる児童らに対し、「さあ、それじや片付いたから皆入つていいよ。岩はこけが生えているので滑らないように注意しなさい。入つていいのはここからあそこまでですよ。」と言つて、上流と下流の目印となる岩を指差して川遊びを許可し、児童らは右川原の前面の川で、一斉に川遊びを開始した。川遊びを許可した場所は当初の予定と異なる場所であつたが、被告田村マキ子は本件川原が川遊びをするのに安全な場所であるか否かについて他の引率者らに格別具体的な相談をすることなく、昼食の際、参加者全員が本件川原に移動しており、児童らも同所で散らばつていたことなどからそのまま同所において川遊びをさせたものである。

(2) 被告田村マキ子が川遊びの場所として指示した範囲は上流から下流方向に向け約一六ないし一七メートルぐらいの間の水域であつたが、川遊びを許可した際、前記のように児童らは川原に散らばり走り回るなどして遊んでおり、児童の中には川遊びの範囲を聞いていない者や範囲がはつきりと分らない者がおり、引率者である被告らの中にも範囲がどこか知らない者がいた。

(3) 引率者である被告らは、川遊び中の監視体制についてなんら事前の協議検討をなしていなかつたうえ、川遊びを許可した後も、被告薦田鍈代・同立松美代子・同木平成子・同田村トモ子の四名は木蔭において残飯でおにぎりを作つており、被告田村優は残飯整理をしている女性の側でタバコを吸つており、またその他の引率者である被告らも食事の後片付けを終えたものがそれぞれ別個に思い思いの位置で川遊びをしている目前の児童らの様子をみていたのにすぎず、児童の監視についての十分な態勢は整つていなかつた。また、被告田村マキ子も水際で五分間ぐらい佇立して児童らを監視し、木平勝也に下流の方の監視を依頼するなどした後、木蔭の方に退いて腰を下ろして目前の児童を監視していた。

(五)  友行の行動

友行は、川遊びの許可が出された際、門脇真(当時九歳)とともに右許可範囲の下限付近にいたが、右許可の後、同人ほか薦田岳、稲葉、門脇広らほか四名とともに南岸(右岸)沿いに指示された川遊びの範囲を越えて下流の方に向かつたのであるが、友行の前に二人の児童が先行していた。右九名の児童のうち友行と門脇真は浅瀬を渡つて対岸に進出したが、友行は岩場伝いに上流へ向つている際、直下の淵(川遊びの範囲として指示された水域の下流約一五メートル付近)に水没した。

その後対岸の巨岩の上にいた児童らが「誰れか水の中にもぐつている」と言い出し、たまたま川遊び開始後、前記のとおり被告田村マキ子の依頼をうけてその付近まできた被告木平勝也が水中に飛び込み、深さ1.5ないし二メートルの深みに沈んでいた友行を引揚げ、被告稲葉博之が同人を受取り、川原に運んだ。そして同人に対して被告川邊幹郎が人工呼吸を行い、続いて現場付近の道路を通りあわせた為石博通が人工呼吸等を試みたが、友行は蘇生することなく同日午後一時三〇分ごろ溺死した。

3  友行の死因について

前掲各証拠によれば、友行は深さ約1.5ないし二メートルの深みに沈んでいたところを被告木平勝也の手で引揚げられたものであるが、同所付近の川の流れはゆるやかであつたこと、発見時の直前まで行動を共にしていた門脇真は他の数名の児童と川遊びの範囲を越えて下流に行き、友行とともに浅瀬を渡つて対岸に進出し、岩場伝いに上流に向い、友行が発見現場の深みに行つたこと、同所で水面から顔を出しパシャパシャ水面をたたいているのを見ていることが認められ、したがつて、友行は同所の深みで死亡したものと推認され、また、友行が救急車で運ばれた駒田医院の医師駒田利周は友行の死因は溺死と判定して死体検案書を作成しており、友行に対して人工呼吸を試みた際に、友行の口から透明な軽い泡立つた液が少し出た旨供述していること、その際実況見分を行つた警察官岡本親徳は友行の腹部圧迫により口鼻から黄かつ色の水液が出た、また身体を側面にした際も同様水液の流下があつた旨の記載のある実況見分調書を作成して刑事法廷においても証人として同旨の供述をしていること、友行が引揚げられた川原において人工呼吸を行つた為石博通も友行の口鼻から水や異物が出たのを見ていることが認められ、三重大学法医学教室の羽場喬一教授は右駒田医師の死体検案書、診療録その他死因に関する関係人の供述調書等を検討した結果、人工呼吸の際に口から泡が出れば溺死と判定できる旨述べ、駒田医院での人工呼吸の際に友行の口鼻から泡が出たことから溺死と判断し、それ以外にも体が水にぬれていること、体が冷たいこと、立毛筋が収縮してざらざらしていること、手足の皮膚に白いしわがあること、死斑が赤いことなども溺死の特徴となる旨供述し、更に、心臓麻痺やショック死等の可能性については、友行が健康な満九歳の男児で、通常の学校生活を送つており、ショック死を起こすような心臓病、薬物服用、ホルモン異常等の身体的条件がなく、当日は炎天下で水温も低いとは認められず(前掲甲第一〇号証によれば事故当日午後三時過ぎの現場付近の水温は二七度であつた。)、その他のショック死の可能性も少ないものと判断していること、刑事法廷においても同旨の供述をしていることが認められ、以上の事実を総合して判断すれば友行は同人が発見された深みにおいて溺死したものと推認するのが相当である。

ところで、〈証拠〉によれば、三上芳雄教授が友行の火葬骨から骨髄に相当する部分(網の目状の海綿質部分)を集めて、壊機法により珪藻(植物性プランクトン)を発見して、事件発生地の河水中のものと同種のものであることから溺死と鑑定しているが、他方で、〈証拠〉では右鑑定における壊機法の検査方法について疑問が呈され、壊機処理及び除酸処理の過程での珪藻の迷入(混入)の可能性が指摘されており、右の指摘には合理性が認められるが、溺死以外のショック死の可能性を指摘する点については前記認定事実に照らし、十分な説得力があるものとは認め難く、右証拠によつては未だ前記認定を覆えすに足りない。

また、友行はある程度の水泳能力を有していたと認められるが、本件のような深みにはまつた場合には狼狽して溺れることも十分考えられ、右事実をもつて前記認定を左右することもできない。

三  責任

1  被告引率者らの責任

(一)  被告田村マキ子の責任

前記二で認定した事実によれば、被告田村マキ子は四ツ葉子ども会の指導者的な立場にあり、同会が計画していたのは飯盒炊飯が中心で川遊びは付ずい的行事であり、せいぜい足を水につけて遊ぶくらいのことが予定されていたにすぎず、水泳などまで予想されていたのではないから、それ自体特に危険な内容をもつ計画であつたということはできないし、また、ハイキング活動などの子供会活動は自主性の涵養に資することなどから児童の成長にとつて有益であることも周知の事実である。

しかし、右計画は未だ十分な思慮判断に乏しく年少の児童が参加して行われるものであることを考慮すれば、それがいかに自主性を養うことを目的の一つとするものであつても、その自主的活動に対し、社会的経験を積み思慮分別のある大人としての引率者において後見的に指導監督し、特に、児童らの身体・生命が重大な危険にさらされることのないように配慮することが必要であることは否定できないし、将にそれが引率者の役目であるともいえる。ちなみに、〈証拠〉(津市教育委員会作成・子ども会活動の手引き)によれば、大体団体活動が可能な年令が小学校四年生ぐらいとされているとの紹介があり、また、心理的特徴として小学校三、四年生は活動が旺盛、自分勝手な行動をとりがち、集団コントロールをすることにより社会性がつく旨の説明がある。そして前記〈証拠〉によれば、参加児童の約二分の一が三年生以下の年少者であり、また三、四年生は参加児童の三分の一であつたと認められる。

そうだとすると、いかに川遊びといえども、まず場所を選定するについて実施区域の危険性の有無を十分に調査しておく必要があると認められるところ、前記二で認定したとおり本件ハイキングにおいては被告田村マキ子らによつて事前に現場の下見が行われているが、当初の予定地は実施場所より約五〇メートル上流であつて、実際に実施された場所は暑いときの移動場所として予定されていたにすぎず、川の中に入つて水深や水中の状況を確認する等の調査まではしていなかつたものの、川底や岩がこけで滑りやすいことやその上流と下流に深みがあることは被告田村マキ子において認識していたことからすれば、このような場所を川遊びの場所として選定するについては、児童に対して実施区域を明確に指示するとともに、児童の年令構成、行動特徴などからみて、上・下流の深みに入りこむことのないよう監視体制を整えて事故を未然に防止すべき義務があるものと認められる。

しかし、前認定のとおり被告田村マキ子が川遊びを許可した時には、けんそうな状況とまでは認められないまでも、既に班ごとの行動は失われる無秩序な状況にあつたにもかかわらず、班ごとに整列させて川遊びの実施区域の設定等の注意事項を十分に伝達することをせず(その結果、被告田村マキ子の指示を聞いていない児童もいた。)、また、引率者らに対して、児童が実施区域からはみ出して危険区域に立入ることのないようにするため各人の監視区域を定めて監視を分担してもらうこともなく、単に実施時点について被告上田、同薦田に対し同意を求めた程度で川遊びを許したこと(その結果前認定のごとく引率者各人が個々的に川遊びの状況に注意するにとどまり、中には食器運びをする者、残飯でおにぎりを作る者などもおり、そのため現に数名の児童が指示区域外で遊ぶという状況になつた。)は、前記注意義務を怠つたものとみるのが相当である(ちなみに、被告田村マキ子は刑事事件において被疑者として取調べを受けた際に、監視が不十分であつたことが事故の原因であることを認めている。)。

(二)  被告上田昇、同薦田鍈代の責任

前認定のとおり、被告上田昇は昭和五一年度四ツ葉子ども会育成会会長であり、被告薦田鍈代は同会書記であり、子ども会の運営についての責任者としての立場にあり、しかも、両名とも、被告田村マキ子とともにハイキングの実施場所の下見に行き、場所の選定をした者であるから、前記の田村マキ子の責任について述べたところと同様に、川遊びの場所の安全性について配慮し適切な措置をすべき注意義務があつたと認められるところ、事故発生当時に被告田村マキ子から昼食をとつた川原の前面の河川で川遊びをさせる時点について、前認定のように声をかけられた際同所は下見をした際に川遊びを予定していた場所とは異なり川の中の安全性を十分に確認していなかつたのであるから、同女に任せきりにせず、直ちに同女と協議するなどして、前記三・1・(一)のような監視体制をとるなどの対応をすべきであるのに、これをすることなく、漫然と同女が児童に川遊びを許可するのに任せたまま児童に川遊びを継続させ、機能的な監視の分担体制をとることをしなかつた点において過失があるものというべきである(ちなみに、右被告両名は刑事事件において被疑者として取調べを受けた際に、監視が不十分であつたことが事故の原因であることを認めている。)。

(三)  その他の被告引率者らの責任

その他の被告引率者は、育成会役員とそうでない者とが含まれるが、役員であつた者も現場の下見に参加することがなく、引率者の中にはハイキング当日の直前になつてから荷物運びなどのために臨時に参加を求められた者もおり、いずれも一般的に引率者として児童の安全について配慮すべき義務は認められるものの、それはあくまでも抽象的な義務にとどまり、本件事故当時、事故を防止するための具体的注意義務があつたものと認めることはできない。けだし、既に被告田村マキ子らの責任について認定したように本件においては、川遊び現場の安全性につき、実施区域外に深みがあることから、児童がその付近に立入らないように周知徹底させ、監視体制を整えるべき点に注意義務があるものと認められるところ、下見にも参加せず、事故当日も被告田村マキ子が中心となつて児童を指導していたものであつて、格別具体的な監視の分担も指示されていなかつた被告らに対して、右のような注意義務まで要求することは困難というべきであるからである。

なお、被告木平勝也が被告田村マキ子から下流の監視の依頼をされていることは前記二・2で認定したとおりであるが、同人は下流に向かい監視を開始したころには既に友行が深みに沈んでいたものと認められるから、同人に過失責任があると認めることはできない。

(四)なお、前説示のとおり、子供会活動は社会的意義を有する有益な活動であることは周知の事実であるところ、右の活動が、本件における引率者のような無償の行動によつて支えられているものであり、かかる行動を社会的に高く評価すべきものであることはいうまでもないところである。

しかしながら、既に認定した本件川遊びの実施状況を前提とする限り、前記の注意義務をそのことの故に直ちに否定する根拠となりうるものでないことは、事柄の性質からみて明らかであり、前記五・1における被告らの主張にはいずれも左袒できず(そこでいう慣習の存在は、本件全証拠によつてもこれを認めることができない。)、また、被告らにおいて危険を予想することが困難であつたと認めることもできないから同・2の主張も理由がない。

2  被告三重県、同津の責任について

原告らの指摘する社会教育法の規定は同法の目的及び当該法条の趣旨に照らせば、各被告らの主張にあるごとく、いずれも右の被告らの具体的な法的義務を定めたものではなく、もとより、原告らのいう危険区域の指定、当該場所におけるレクリエーション禁止措置等の作為義務の根拠となりうるものではないと解されるから、更に判断を進めるまでもなく理由のないことが明らかである。

四  損害

1  友行の逸失利益

(一)  前記認定のとおり友行は本件事故当時満九歳の男児であつて、厚生省第一四回完全生命表上の満九歳の男子の平均余命年数は63.92年であるから、同人は本件事故にあわなければ六七歳に達するまで稼働しえたものと考えられ、また、〈証拠〉によれば友行は少なくとも高校卒程度の学歴を得て一八歳時から就職し稼働を開始することが可能であつたと認められる。

ところで、逸失利益の算定については、事柄の性質上、口頭弁論終結時における最新の資料を用いることに合理的根拠があると認められるから、原告らのいうとおり昭和五六年度賃金センサス第一巻第一表男子労働者学歴計の年令別年間合計額の一八歳の項に基づき年間収入(賞与等を含む)を一五八万七五〇〇円であるとするのが相当である。

そして、その生活費は右収入額の五割と認めるのが相当であるから、これを控除したうえ、同人の死亡による逸失利益を年別ホフマン式計算法(就労可能年数四九年に対する一八歳未満者に適用する新ホフマン係数19.574を採る。)により年五分の割合による中間利息を控除して計算すると、一五五三万六八六二円となる。

=15,536,862

(二)  ところで、既に認定した事実によれば、友行は満九歳の男子であり、少なくとも同年令の平均的な児童と同程度の判断能力は有していたものと認められ、もとより年長者と同程度の十分な思慮判断を期待しうるものではないが、指導者の指示に従つて行動することは可能と認められ、同人と同様指示範囲をこえて行動した他の数名の児童の中に指示範囲は聞いていないとする者のあることからすれば同人には被告田村マキ子の指示する範囲は聞こえなかつたことも考えられないではないが、大多数の児童が昼食をとつた川原の前面の指定範囲内で川遊びをしているにもかかわらず、指示区域から一五メートルも離れた深みで水死していることからみると、友行の行動に逸脱がなかつたものと認めることは困難であり、また、川遊びに伴い生じうる危険を回避するための注意は自分ですることが可能な年令と認められ、また、前記〈証拠〉によれば、当日は川の深浅の状況は容易に視認しえたものと認められるから、前認定の死亡の状況によれば、本件事故は同人の不注意によつて発生したものと認められる面もあり、同人の損害額を算定するにつき、過失としてこれを斟酌すべきものといわなければならない。のみならず本件の場合は、無償の奉仕活動によつて支えられている子供会活動の一環として実施されたものであり、子供会活動はあくまで子供の自主的活動を中心とするものであるから、その行事に参加する子供は、当該行事において、集団の仲間の中で、指導者の助言をうけながら、自主的に仲間と協力し合つて行動を共にしてゆくことを了承し、これを前提として参加しているものというべく(〈証拠〉によれば、原告ら及び友行においても右の点を了承して参加しているものと推認される。)、したがつてかかる活動により法益侵害の結果が生じた場合、業としてなされる団体活動(たとえば、本件の場合に比していうならば、施行業者によりなされるハイキングツアーなど)に比し、その違法性の程度は著しく低いものと評価すべきであり、まして被害者自身において結果発生の危険性のある状況を自ら作出した場合は尚更のことといわなければならない。そうだとすると、右の点は損害の公平な分担という見地からみて、前認定の事実関係からすると、本件の場合、前記過失相殺の点と併せ、かかる事情を同様に斟酌するのが相当であると解され、右に従えば、本件において友行に生じた前記損害のうち、被告らが負担すべき部分は、これを二割とするのが相当である。

したがつて、これを計算すると三一〇万七三七二円(円未満切捨て)となる。

15,536,862×0.2=3,107,372.4

2  友行の慰謝料

友行が本件事故により多大の精神的・身体的苦痛を受けたことは既に認定した事故の態様等からして明らかであるところ、同人の年令、その他既に認定した諸事情を総合考慮すると同人は慰謝料として五〇万円の支払を受けるのが相当である。

3  相続

原告らが友行の両親であることは各当事者間に争いがなく、右事実によれば、原告らはそれぞれ1項及び2項の金額の合計三六〇万七三七二円の二分の一である一八〇万三六八六円宛相続したことが認められる。

4  原告らの慰謝料

原告らが友行の両親であることは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、原告らが本件事故による友行の死亡によつて多大の精神的打撃を受けたことが認められ、前認定の本件事故の態様、前記四・1・(二)で認定説示した事情、その他諸般の事情を総合考慮すると、原告らはそれぞれ五〇万円の慰謝料の支払を受けるのが相当である。

5  葬儀費用

〈証拠〉によれば、同原告は、友行の葬儀費用として少なくとも三〇万円の出費を余儀なくされたことが認められ、前記被告らの負担すべき割合二割にしたがつて計算すると金六万円となる。

6  弁護士費用

原告らが弁護士に依頼して本訴追行にあたつたことは記録上明らかであり、訴訟の性質、態様、期間、難易度、認容金額等に照らし、その費用中各三〇万円をもつて本件事故と因果関係のある損害とみるのが相当である。

五  結論

以上によれば、本訴請求のうち、原告久保治が被告田村マキ子、同上田昇及び同薦田鍈代に対し、損害賠償金等合計二六六万三六八六円、原告久保信枝が右被告らに対し、損害賠償金等合計二六〇万三六八六円並びに原告久保治においては内金二三六万三六八六円、原告久保信枝においては二三〇万三六八六円に対するそれぞれ不法行為の日である昭和五一年八月一日から支払ずみまで及び内金各三〇万円に対する本判決確定の日の翌日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、同被告らに対するその余の請求及び右被告ら以外の各被告らに対する請求は、全て失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文を適用し、仮執行宣言の申立は相当でないからこれを却下することとして、主文のとおり判決する。

(上野精 大津卓也 今泉秀和)

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